概要
具体と抽象という書籍を読んだのだが、とても学びがあり、他の人にもすごくおすすめしたいなと思ったので、個別の記事として感想を書いてみた。
全体的な感想
抽象化のメリット、デメリット、使い方、具体とセットで考える、など、すごく学びになることが多かった。
現代のようなインターネット社会で、様々な情報が飛び交うからこそ、そのなかで抽象的に考えられ、本質を見抜ける力を身につけるためにも、とても有意義な書籍になっていると思う。
また、自分はソフトウェアエンジニアをしているのだが、日常生活や仕事でのコミュニケーションだけでなく、プログラミングの文脈でも大事な思考なので、そういう面でもこの本に出会えてよかった。
どういう人におすすめな内容か
- 抽象化について気になっている人
- 他人とのコミュニケーションにおいて、話が噛み合わないことがあると感じたことがあるが、もやもやしたままの人
- 固定観念に縛られやすいと自覚がある人
特に気になった章の感想
全部の章で学びがあったのだが、そのなかでも特に気になった部分をもとに感想を書いてみた。
序章 抽象化なくして生きられない
「具体=わかりやすい」「抽象=わかりにくい」というのが一般的に認知されている
...(中略)...
具体=善、抽象=悪という印象はとんでもなく大きな誤解です。
コンテキストにもよるが、恥ずかしながら僕も上記のように考えてしまっていた時期があった。
このことに気づけるだけでも、この本を読む価値があるように思える。
第1章 数と言葉
たとえば、「鮪」は「魚」の具体でもあり、個別の鮪の抽象でもあるというように、あくまでも相対的にどうみるかで具体か抽象かが決まる
当たり前のことだけど、たしかに!と思った。
なので、他人とコミュニケーションを取るときに、自分が抽象化して話していると思っていても(そう勘違いしていても)、実は抽象の目線(レベル)が合っていない、というようなことが起こり得るのかもしれない。
例えば、相手が「クロマグロが、〜。キハダマグロが、〜。」というようなことを話していて、自分は「(あ〜、鮪のことね)」と思っていても、実は魚全体のことを話していた、とかがあるのかもしれない、と思った。
(さすがにそれはないかもしれないが)
第2章 デフォルメ
抽象化とは一言で表現すれば、「枝葉を切り捨てて幹を見ること」といえます。
第1章にあったように、抽象は相対的にどうみるかで考えるということなので、言い換えると、その場その場での本質を捉えることが大事なのかなと思った。
自分は細かいことが気になる性格なので、どうしても枝葉を見てしまいがちなのだが、抽象化思考を鍛えるという面では、幹を見れるように、いい意味で細かいことを気にしないようにしていきたい。
第4章 法則とパターン認識
抽象化の最大のメリットとして、
複数のものを共通の特徴を以てグルーピングして「同じ」と見なすことで、一つの事象における学びを他の場面でも適用することが可能になることです。つまり「一を聞いて十を知る」(実際には、十どころか百万でも可能)です。
とあった。
たしかに、知らず知らずのうちにやっていることもあるとは思うけど、それこそが抽象化の最大のメリットであり、武器なんだなとはっきりと知ることができた。
プログラミングの文脈だと、デザインパターンとかが、そのメリットを活かした手法なのかもしれない。
第8章 本質
世の「永遠の議論」の大部分は、「どのレベルの話をしているのか」という視点が抜け落ちたままで進むため、永遠に噛み合わないことが多いのです。
これは、第1章で出てきたように、相対的にどう見るかで具体と抽象が決まる、ということだとも思った。
X(旧: Twitter)とかで議論していることの大半って、まさにそういうことだよなあ、とも思える。
僕はそういう争いごとが嫌いなので、そういうのを見ると、ただただ嫌な気持ちになることが多かった。
けど、この本のおかげで、そういうのを見ても「あ、抽象レベルがずれているな」と気づけるようになったり、その議論の幹は何だろうと考えるための抽象化思考を鍛えるトレーニングにもなったりするので、別目線で見るとそれはそれで面白いコンテンツになり得るんだなと思えるようになった。
具体レベルでしか相手の言うことをとらえていないと、少しでも言うことが変わっただけで、「心変わり」ととらえてしまいます。
この本の例でも出てくるが、上司と部下の関係がまさにそうなんだということがわかる。
しかし、これはどうしても経験の差だったり、ポジションの差だったり、というところで、部下(具体レベルでしか捉えられない人)が、一律に悪い、というわけでもないと思った。(別に、この本にはそういう人が一律に悪い、と書かれているわけではない)
上司(抽象レベルで考えられる人)が、部下にそう思わせないようにするための努力をするなどの、責務は負うべきだとも考えられる。
第11章 量と質
抽象の世界での「単純化」は、短絡的思考とはまったく対極のもので、対象が複雑であればあるほどよく、それをいかにシンプルにするか、まさに具体と抽象とのギャップの大きさ」を追求することです。
これはまさにプログラミングの文脈で、自分が特に身につけていきたいことだと思った。
難しいことをシンプルに考える、実装する、といったことができる人は、設計力が特に強い印象がある。
第15章 階層
抽象化して話せる人は、「要するに何なのか?」をまとめて話すことができます。
これもとても大事で、身につけたいこと。
僕はなるべく「要するに何なのか?」を意識することは多いけど、いざ話すとなるとそれはそれでとても難しかったりするので、要約したものを言葉にして出す、という能力はまた別なのかなとも思ったりした。
あと、抽象化思考ができる人とそうでない人を簡単に見分けるには、この方法が一番判断しやすいのかなと思った。
第16章 バイアス
ルールや理論、法則は、大抵の場合は具体的に起こっている事象の「後追い」の知識だったはずです。ところが、一度固定化された抽象度の高い知識(ルールや法則等)は固定観念となって人間の前に立ちはだかり、むしろそれに合わない現実のほうが間違いで、後付けだったはずの理論やルールに現実を合わせようとするのは完全な本末転倒といえます。
いわゆる、ブラック校則とかもそうなのかなと思った。
そういった凝り固まった考えを自分ももし持ってしまった場合には、改めて抽象化思考をしなければいけない。
第18章 マジックミラー
具体の世界と抽象の世界は、いってみればマジックミラーで隔てられているようなものです。本書のピラミッドで言うと、上(抽象側)の世界が見えている人には下(具体側)の世界は見えるが、具体レベルしか見えない人には上(抽象側)は見えないということです。
このピラミッドを下から上に行くのって、本当に難しいよなあと思う。
自分が下にいることがわかっていて、上の世界が存在するのもわかっているけど、その見えていない部分を見ようとすることが難しく、見れないことがむず痒いかは、割と経験したりする。
この場合は、下の人が上を見えていないことを上の人に適切に伝え、上の人は下の人が上に行くのを手伝ってあげるのが、理想なんだよなあと思う。(難しいことだけど)
自分には理解できないレベルの抽象を前にすると、私たちは「わからない」と批判の対象にしてしまうのです。
プログミングの文脈だと、概念のような抽象的なことが多いので、よくあることのように思った。
そう考えると、自分の場合は(たぶん他の人も)それに関する具体的なことをいくつか学んでから、なんとなく抽象化していき、理解する手法を取ることが多いので、そういった方法でマジックミラーの向こう側に行ける方法を知らないうちに試していたんだなあと思う。
第19章 一方通行
前章で、「具体抽象」のピラミッドには、片側からしか見えない「マジックミラー」があると書きましたが、このピラミッドには、別の「一方通行」があります。 「一度上ったら簡単には下りられない」ということです。
...(中略)...
要は、状況と相手に応じてちょうどよい抽象度でコミュニケーションすることが重要です。「抽象的だからわかりにくい」ということがクローズアップされがちですが、じつは「具体的すぎてわかりにくい」こともあるのです。
「具体的すぎてわかりにくい」というのは、なるほど!と思った。
たしかに、抽象化されたもの=シンプルなもの、ということでもあるから、わざわざ具体化されたもの=複雑なもの、でコミュニケーションを取ったり、考えたりするのは煩わしいという側面があるように思った。
(ハイコンテクストか、ローコンテクストか、みたいなこともそうだと思う)
第20章 共通と相違
高い抽象レベルの視点を持っている人ほど、一見異なる事象が「同じ」に見え、抽象度が低い視点の人ほどすべてが「違って」見えます。したがって抽象化して考えるためにはまず、「共通点はないか」と考えてみることが重要です。当然ここでいう共通点は「抽象度の高い共通点」です。
...(中略)...
表面的な類似性でなく、関係性や構造レベルでの共通点と相違点に目を向けること、そして「要するに何が大事なのか」という本質レベルで共通点や相違点に目を向けること、それができれば抽象化というツールを最大限に生かすことができます。
この章の別の箇所にも書かれているのだが、これらの力をつけていくためには、やはりいろんな経験や、読書や映画鑑賞などの疑似経験を積み、自分の裾野を広げることが大事だと思った。
なので、あまり好き嫌いせずにものごとに取り組んでいける姿勢を持つことが抽象化思考を鍛えるためにも大きなことなんだなと思う。
さいごに
ほんとに全部の章がとても学びになるくらい、とても素晴らしい書籍でした。
いつも本を読むときは、気になった箇所をメモするのですが、ビジネス書の中ではダントツでメモした量が多かったです。